東京の桜が咲き始めた今年の3月、アンダルシアの小さなこの村に引っ越してきました。3歳児を連れて長時間の飛行機。ミカン箱80個以上の荷物の船便輸送。体力勝負の大移動の末、ようやく念願の現地入りを果たして…気が付けばもう半年が過ぎようとしています。
滞在許可や運転免許の切り替えなど、やはりスペインは予想を裏切らないスローテンポ。ところが子供の現地校入学手続きは…予想外にスムーズだったのです!あの驚きと感動を、記憶の新しいうちに筆にしたためておきましょう!
スペインの幼稚園
スペインの新学年は9月からスタートします。幼児教育は3年間(日本の年少・年中・年長といったところでしょう)、その年に3歳になる幼児から入園です。つまり、9月から12月に生まれた子供は、まだ2歳の途中から幼稚園がスタートするというシステム。
現地到着時にはすでに、娘が入っているべき年少学年が半分終わっている状態でした。
「いろいろな書類の手続きが落ち着いて、夏休みまでに入園できればいいな~。そのうち時差ボケが治ったら村役場にでも聞きに行こう」
「まあ幼稚園だし、そんなに必死に頑張らなくてもね…ここはスペインらしくゆったりと教育しようじゃないか」
とのんきに構えつつ、内心では
「本当にちゃんと入れるのだろうか。滞在許可や郵便局のように、さんざん待たされて何も進まないのかも。これだからスペインは…」という不安で一杯でした…ところが!
小さな村で運命の出会いが欲しければ…とりあえず公園へGo!
スペインに入国してまだ1週間もたたないある日、飛行機の筋肉痛が残っていて家の中でゴロゴロ過ごしたかったのですが…夕暮れ時に子供が外に出たがったので、とりあえず村の子供が集まる公園に行きました。
皆、私たちが引っ越してきたことを知っていて、親しげに世間話に花を咲かせているその中に、学校の教頭先生が夕涼みをしていたのです。
まだ着いたばかりで学校の入学手続きもしていないと言うと、「それでは明日の朝9時に登校してください。Hasta mañana.(また明日!)」と言って去ってゆかれました。
翌朝「もしかしたら入学用の書類くらいはもらえるかもしれない」と思いつつ、手ぶらで寝間着兼用のジャージを着て学校に連れてゆきました。
すると、そのままス~っと幼児用の教室に通され、かばんをかける場所やトイレを説明され、担任の先生も到着して朝の挨拶の歌が始まり、「2時に迎えに来るように」と言われて親は教室から追い出され…こうして、気が付いたら幼稚園生活がスタートしていたのです!
学校デビューという人生の晴れ舞台が…入園式のような感動的なシーンも無く、カメラも無く記念写真も撮れず(持っていてもあんな服では写真に残せせません)。
帰り際にA4のフォームを2枚渡され、「そのうち住所やパスポート番号を記入して持ってきてよ」と肩をたたかれ、あっけなく学校生活が始まりました。
村の学校生活
学校と言っても幼稚園から中学校までが同じ校舎にあり、教室が3つしかない(幼稚園で一室、小学校で一室、中学で一室使っている)村の分校です。
国営で学費は無料、ただし教材費は自腹です。入るのも通うのも気楽で快適ですが、度肝を抜かれる文化にも遭遇します。
一番驚いたのは、おもらしをした時に下着を替えてくれず、わざわざ家に電話がかかってきて親が後始末に駆けつける、というシステム。かばんの中に替え着を入れてあると伝えても「あ、そうですか。ではそれに着替えさせに来てください。ガチャン!」とスルーされ、ダッシュで駆けつけること数回。
これはどこの学校でもそうなのか、この学校だけなのか、いまだに謎ですが…「ああ、スペインに住んでいるなぁ!」と感慨に浸る出来事の一つでした。
スペインのスローライフ
公務員の仕事も公共サービスも、堂々とスローテンポなスペイン。何も期待していなかっただけに、こんなに簡単に学校生活を始められるとは嬉しい肩透かしでした。もっとも、人数の多い地区ではこんなに簡単ではないのかもしれませんね。
「とりあえずちょっと声をかけてみる」ということの大切さを体感した入学手続きでした。この「あっけなさ」…たとえて言えば、「忘年会シーズンの金曜夜。10人以上の大人数で予約無しで居酒屋に行き、何時間も待つこと覚悟で腹をくくり、入り口の『ご案内待ちリスト』に記名した。そのとたんに『はいっ!ご新規様ご案内いたします、いらっしゃいませ!』と元気な声をかけられて席につけた。しかも誰かがおごってくれて無料!」これくらいの「嬉しいあっけなさ」レベル。
さて秋の新学年もスタート。生徒のみなさん、また一年、のびのびとスペイン人らしく学んでください…!