スペインで田舎に住むとなると、やはり移動の足は車!と、分かってはいたものの…ペーパードライバー歴10年の私は、「運転」と聞いただけで現実逃避モードでした。しかし意を決して、この度ついに「脱ペーパードライバー」に(だいたい)成功しました!
きっかけは一台の車だった!
自動車教習所合宿でオートマチックの免許をとったのは、まだ日本に居た10年ほど前のお話。それ以降、ゲームセンターでマシンに乗る以外はハンドルすら握ったこともなく、律儀に更新だけを繰り返し、色あせることのないゴールド免許を持ってスペインへ移住しました。
滞在許可の手続がすみ、「念のため運転免許もスペインに切り替えておこう」と地元のJefatura de Tráfico(交通警察局)で手続きをしたものの…そもそも自家用車も無く「まあ、実際に運転するのはずっと先だろう」と、他人事のように構えていたものでした。
しかし、数カ月過ごすうちに、やはり「こんな時に車で動けたらどんなに便利だろうか」と思うこともしばしば。とはいえ簡単に購入できる値段ではないし…。
モンモンと過ごしながら、ある日占い好きの友人から「新月の夜に願い事を書くと叶う!」という情報をキャッチ!半ばやけくそで「だれかすごくいい車をタダでください。」と書いてみました。
その甲斐あってか、それから1か月も経っていないある日、「パーキンソン病のために運転ができない」という親戚の叔父さんから連絡が…!「まだ2回くらいしか乗っていない車がずっと車庫で寝ているから、よかったら使ってください」となんとも太っ腹なオファーが!
結局名義切り替え代(日本円で30万円)だけで頂けることになったのです。思いがけないプレゼントに大感謝!そして同時に「いよいよ車を運転できるようにならなければ…」というプレッシャーも押し寄せてきました。
素直にペーパードライバー講習へ
「オートマチック車しか触ったことがない」「右側走行を練習したことがない」「教習所でも通常の3倍以上実地講習をさせられ、その後1度も運転していない」…こんな三重苦(年齢も三十九!)を抱え、自動車教習所のドアをたたきました。
日本の教習所のような緊迫した空気はゼロ。民家の玄関のような受付には、スタッフが趣味で作ったアクセサリーが売られていたり、お菓子やドリンクが所狭しと陳列されていたり、むしろ「これで本当に運転できるようになるのだろうか」と、カジュアルすぎて怖くなるほどでした。
ペーパードライバー講習は1回45分で20ユーロ。「運転が怖くなくなるまで、気が済むまでのれ」という、良く分からないシステム。「さすがに教習所内のコース練習からスタートだろう」とたかをくくっていたのですが、なんと初日から公道を走らされたのには驚きました。
そしてもっと驚いたのは…「わたし…意外と上手に運転ができる!」という事実。これはまちがいなく、スペイン人教官の指導力のおかげです。
常にタバコを吸っている女性教官。日本の教習所にありがちな鬼教官トークではなく、その話し方はまるで催眠術。
淡々と歌うように「これがクラッチ、これがアクセル~、あなたはこの2車線道路の右側を優雅に走るのです。はい、ゆっくりクラッチをあげて…」と言われるがままに、気が付いたら悠々とバス通りを運転してしまっていました。
そもそも日本でもペーパードライバーだったので、左走行の癖がついているわけでもなく、あっさりと右走行ができたのも良かったようです。ただ、坂道発進にはてこずりました。クラッチの加減が分からず、何度もエンスト。それでも誘導催眠教官のおかげで、ストレスなく講習を受けることができました。
また通いたくなる自動車教習所
「1か月は通い続けるだろうな…」と覚悟して受け始めたペーパードライバー講習。ところがたった4回目の講習の時に、「今日でもう終わりにしても大丈夫かしらね?」と言われてしまったのです。さすがにもっと練習したほうがいいだろうと思い、必死で頼んでもう1週間通えることになりました。
最後の1週間は私以外の二人の生徒も相乗り。二人の講習が終わるまで後部座席で待機、合計3時間近く市内を連れまわされる受講でした。(よほどスケジュールが詰まっていて、早く私の講習を終わりにしたかったのかもしれません…。)他の人の運転を観るのは、かなりいい勉強になりました。(この勉強をさせるために、わざわざ相乗りクラスに放り込んでくれたのかもしれません…。)
同じ20ユーロで3時間分の講習を見聞でき、かなり勉強になりラッキーでした。そしてついに最後の講習の日…思いがけず感動的な光景を目の当たりにし、一生心に残る催眠術教官の人柄にも触れることになったのです。
その日同乗していたのは、翌日に最終実地試験を控えた、ちょっとギャル系の明るい女の子。ずいぶんキャアキャアとさわぎながら運転をし、「ギリギリ運が良ければ合格できるのかな」という印象でした。そんな彼女が講習を終え、車から降りる時、催眠術教官が言った言葉。
あなたはよく頑張ったわ。だからあなたに必要なアドバイスは一つだけよ。それはあなたの演じている『自分らしさ』のこと。世の中、『女だから運転が下手だろう』とか『男の方が上だ』って思ってる人ばっかりなのよ。
私はあなたにずっと教えていて、あなたが本当はどんな人間なのか分かっている。だけど、あなたを知らない人はあなたを一瞬だけ見て、それが『あなたらしさ』だと勘違いしてしまうのよ。
わざわざ『女は運転が下手だ』と見下したがる人たちが期待しているような女を演じなくてもいいの。本当の自分だけを見せて生きなさい。私はあなたが本当は誰なのか知っているからこう言うのよ。
ギャル講習生だけでなく、後ろで聞いていたわたしの魂も揺さぶられました…車の運転以上のことを、催眠術教官は私たちに伝えようとしていたのです。「ここに一生通い続けたい」…まさかこんな気持ちになる教習所がこの世にあったとは!
最後に
予定通り講習を終え、まずは近場のプールに子供を送迎、ガソリンスタンドデビュー、などなど…マイペースで運転を続けています。
思いのほか早く講習が終わったものの、まだまだ運転への苦手意識はシッカリ。でも、少し怖がって運転するくらいの方が、注意深くていいのかもしれませんね。