ある時私は、民間の異文化交流プログラムに登録していました。その時の滞在先が、イギリスの幼稚園でした。
プログラム内容
プログラムの内容は、滞在先の教育機関に合わせて、日本文化についての授業を行うというものでした。私の場合は幼稚園でしたので、紙芝居やおりがみなどの遊びの文化を多く紹介していきました。
幼稚園には3~6歳の園児が学んでいました。3、4歳児はまだ母国語での会話も曖昧ですが、5、6歳児になると習字もできますし、1から10までを日本語でカウントできるようにもなりました。
ピーターパン
そんなある日、4歳児クラスで日本について話始めたところ・・・。「せんせい!せんせい!」と、ものすごい勢いで挙手をする子がいました。そして、僕は家に日本を持っている、と興奮しながら叫ぶのです。
不思議に思い、それはどんな日本ですか?と彼に尋ねると・・・。
「みどりいろのぼうしをもっているよ♪」
「そらをとべるよ♪」
「ようせいのおともだちがいるよ♪」
・・・『ピーターパン』です。彼の言う日本は、完全に『ピーターパン』の事です。どうやら彼の中で、ジャパンの“パン”とピーターパンの“パン”がシンクロした様子。私と担任の先生は大爆笑でしたが、その後も彼は、彼の“パン”について熱く語り続けていました。
4歳では、自分の住んでいる国や州はもちろん、市町村名ですらまだよくわかっていません。「どこに住んでいますか?」と聞けば「あかいやねのおうち♪」や「となりのいえのいぬはおおきいよ♪」といった答えが返ってくるお年頃です。可愛くて仕方がありませんでした。
そこがヘンだよ
それが5歳児になると、少しずついろいろな事がわかってくるようです。私が5歳児クラスで授業を始めてしばらくした頃、ある男の子が怪訝そうな顔をして私に言いました。先生は英語をしゃべっていない、と。
彼は続けます。「先生の言葉は気持ち悪い」と。5歳児が覚えたてのスラングを使って私を攻撃します。そこで一旦、担任の先生にやんわりと注意されますが、彼は同じ言葉を繰り返します。私は彼の目をしっかりと見ました。
「先生の言葉はわからない?」
「わからない。」
「そっか、じゃあ君の好きな動物は何?」
「・・・トラ。」
「今朝の朝食は何だった?」
「バナナ。」
「昨日のアニメ見た?」
「みた!ぬいぐるみをもっているよ!」
そんなふうにして、しばらく彼との世間話が続きました。そしてふと、君と先生が話している言葉は英語かな?と聞くと・・・。彼は、あっ!と口を押さえて恥ずかしそうに笑いました。
きっと私のアクセントが聞き慣れないものであったからだと思います。その後、担任の先生から丁寧にお詫びをされました。そして、そんな違和感を感じる事も、子供たちにとっては異文化にふれる良い機会なので、今後もフォローします、と言ってくださいました。
ちなみに、園児の対応について困った時にどうしたかといいますと・・・。
困ったときの対応
あらかじめ、プログラムの研修中に「学校生活での決まり文句」がビッシリと書かれたプリントをもらっていました。それには、「口は閉じて手はひざの上」という姿勢に関するものから、「そこに立っていなさい!」という叱り文句まで、いろいろと書かれていました。叱り文句は、気まぐれな園児をまとめるために本当に重宝しました。
子供たちは、日本でもイギリスでも同じです。愉快で可愛らしく、自由奔放です。そんな子供たちと過ごしたイギリスでの日々は、今でもずっと楽しい思い出です。
執筆者:ぴろきちこ(ペンネーム)
かつて旅した国を語りたいお年頃。