日本のエレクトロニクス産業の低迷が叫ばれて久しい。半導体・液晶パネル・携帯音楽プレーヤー・携帯電話など各分野で日本は、米国・韓国・台湾・中国の後塵を拝している。かつて日本はこれらの分野において世界シェアの上位を独占していた。今回の記事においては、このような日本の現状をもたらした米国と台湾に焦点を当て、米国型水平分業と台湾型EMS戦略について簡単にまとめてみた。
アップルの戦略
矢野経済研究所によれば、携帯電話の世界普及は、2014年に75億契約数となり、世界人口比で103.5%となり、世界中で1人1台を超えた。世界中で同じ光景が広がっているわけだ。おそらくは固定電話は引けないが、携帯電話は購入できるのだろう。
この状況を世界にもたらしたきっかけはアップル社だろう。アップル社なくしてスマートフォンはなく、アップル社のiPhoneが人びとの生活に革命を起こしたと言える。
アップルの戦略は大きくみて二つあるようだ。
- デザイン・ドリブン・イノベーション戦略
- 米国型水平分業戦略
「デザイン・ドリブン・イノベーション戦略」とは簡単に言えば、とことんデザインにこだわる戦略だ。一例としてあげられるのは、デザインを重視して側面の金属フレームを削り出し加工にしたことだ。プレス加工にすれば簡単にできるものを、敢えて削り出し加工にした。
「米国型水平分業戦略」とは、米国では株価が最も重要なので、製造部門を売却して資産を減少させ、資産効率化による利益向上によって、株価上昇をもたらす戦略のことだ。
台湾ホンハイ社のEMS戦略
このアップル社の二つの戦略に迅速かつ適格に対応したのが台湾のホンハイ(フォックスコン)社だった。
ホンハイ社は、アップル社の「デザイン・ドリブン・イノベーション戦略」に応えるために、日本から大量のマシニングセンターを購入して、中国工場で中国人従業員に金属フレームの削り出し加工をさせた。これは機械業界の常識では考えられないことだ。
また、「米国型水平分業戦略」に応えるために、ホンハイはEMS企業となった。EMSとは「Electronics Manufacturing Service」の略で、文字通り「電子製品の製造サービス業」として、製造工程を請け負う企業のことだ。垂直統合型の日本企業からは、このようなブランドも設計も販売も放棄する潔さは考えられなかった。
ホンハイの会長郭台銘氏の経営手法は、軍隊式管理手法と呼ばれ、目標管理は厳しく、目標未達の管理者には厳しい罰則がある。中国人の自殺者を出したほどだ。「毛沢東語録」ならぬ「郭語録」を従業員に持たせ、「経営者は独裁者である」ことを植え付けているという。
一方で社員教育にも熱心で、3つの金型学校を運営し、すでに3万人の金型関係社員が育っているという。
ホンハイは、アップルとの提携により、10人で始めた会社を、40年後に従業員100万人、グループ企業70社、売上高14兆円で、日本最大電機企業を超える規模に成長させた。
人口に関する世界数字物語
2014年に携帯電話の世界普及は75億契約数となると書いた。これに関連して人口に関する世界数字物語を書いてみよう。
- 世界人口:73億人
- 上下水道なし風呂なし人口:世界で約9億人(約8人に1人)
- 上下水道なし:アフリカで4億5000万人
- トラコーマ(感染症):毎年800万人が永久失明
- 非衛生トイレ:24億人が適切な公衆衛生トイレにアクセスできていない
- 屋外トイレ:10億人以上が屋外で排便している
- 安全トイレ:世界の女性の3人に1人は安全なトイレを利用できていない
- 電気が使えない暮らし:13億人(世界人口の20%)
- 石油ランプ:インドでは毎年150万人が石油ランプの事故で焼死
- 携帯電話:2014年に携帯電話の世界普及は75億台
執筆者:姉崎慶三郎